[事例] 路上窃盗事件

 ガソリン窃盗事件は関西の事件でしたが,その再現のような事件が関東で起きました。
 報道によれば,警察は,他人のキャッシュカードを使いコンビニのATMで現金を引き出そうとして失敗した窃盗未遂の容疑である男性(著名人の親族)を逮捕していましたが,検察は,20日間勾留した後男性を処分保留で釈放しました。すると警察は,釈放と同日に,コンビニでキャッシュカードを使う直前に,酒に酔って路上で寝ていた被害者から,そのキャッシュカード等が入ったバッグ(3万円相当)を盗んだという窃盗の容疑で男性を再逮捕しました。検察官は,男性の勾留を請求しましたが,裁判官が勾留請求を却下したため,男性は釈放され,その後男性は不起訴処分となりました。

 西の事件と今回の東の事件はよく似ていますが,若干違うところもあるようです。
 その1は,西の事件においては,悪質な車上狙いの容疑で逮捕し,その後,より軽微なガソリン窃盗の容疑で再逮捕していますが,東の事件においては,軽微なATMからの現金窃盗未遂の容疑で逮捕し,その後,より悪質な酔っ払った被害者からバッグを盗んだ窃盗の容疑で再逮捕しています。段取り的には東の事件の捜査が常識的なものといえると思います。
 その2は,報道によれば,東の事件においては,防犯カメラの映像のほかに,男性とみられる男がバッグをとって逃げるのを目撃した人がいるということです。なお,西の事件においては,防犯カメラの時刻設定に誤りがありましたが,東の事件ではそのような報道はありません。
 その3は,西の事件においては,容疑者が終始否認していましたが,東の事件においては,報道によれば,男性が「財布をなくして探していた。被害者の持ち物を見たかもしれないが,盗んではいない。」と曲がりなりにも供述していたということですし,その後再逮捕の容疑を認めたということです。
 そして何よりも東の事件においては,裁判官が2度目の勾留請求を却下している点が西の事件と異なりますし,検察官の処分も西の事件は起訴(後に起訴の取消),東の事件は不起訴処分という違いがあります。

 しかし,一連のひとかたまりの事実で男性を再逮捕し,検察官も勾留請求したという点は全く同じですし,東の事件は,8月13日に発生し,逮捕は9月11日ということですから,遅くとも1回目の20日間の勾留の間には再逮捕事実についても必要な捜査はほぼ終えていたのではないかと思われ,捜査の進展具合は,西の事件と同じであるように思います。東の検察官は,再逮捕・勾留していったいどんな捜査をしようとしたのでしょうか。目撃者の証言の信用性を確認したり,防犯カメラの映像をさらに解析したり,財布から指紋を検出したりしようとしたのでしょうか。しかし,そんなことは事件発生から約2か月も時間があったのですから,再逮捕前には終了していたと考えるのが常識的だと思います。そうするとこちらも自供を得るために再逮捕し,勾留しようとしたということでしょうか。

 東の事件では,男性が事実を認めたため,裁判官が勾留請求を却下したようですが,否認していれば,西の事件と同じように勾留していたかもしれませんし,否認していれば検察官は起訴したかもしれません。
 両事件とも殺人や強盗といった悪質・重大な事件ではなく,比較的軽微な窃盗の事案でした。法律的には両事件とも2つの犯罪が成立するわけですが,この程度の事件で逮捕・勾留を繰り返されたのではたまったものではありません。結果的に,西の事件では起訴が取り消され,東の事件では不起訴になっているわけです。捜査機関は強制力を行使することにもっと慎重であるべきだと思います。
 そして,それ以上に裁判官は,逮捕状や勾留状を発布する判断をもっと慎重に行い,捜査機関の行為を厳しくチェックすべきであると思います。逮捕→勾留→勾留延長はベルトコンベアに乗せられた荷物のごとく流れていくシステムになってしまっているのが現実であり,裁判官によるチェックはほとんど行われていないといわざるを得ません。