[事例] 園児事故

 平成18年9月,埼玉県川口市の住宅街の生活道路の左端を一列になって歩いていた保育園児らの列にライトバンが突っ込み,4人が死亡,17人が重軽傷を負う事故が発生しました。証拠上,事故の原因は,運転手が車内のカセットテープを操作するため,脇見をしたことにあると認定せざるを得ない事案でした。幼い最愛の子供を一瞬のうちに失った遺族らは,危険運転致死傷罪を適用し運転手を厳罰に処すよう強く求めました。生活道路を約50キロ毎時もの速度を出し(制限速度は法定の60キロ毎時でした),しかも脇見までしているのだから,危険運転に決まっているということです。
 警察も検察もあらゆる角度から捜査し,検討しましたが,証拠上,法律が定める危険運転致死傷罪には該当しないと認定せざるを得ませんでした。
 遺族らには何時間もかけて処分の理由を説明しましたが,全く納得してもらえませんでした。担当検察官は,毎日のように遺族らからかかってくる電話等に対応し,検察官が精神的に病んでしまうという事態も発生しました。私は,当時次席検事をしていましたが,担当検察官に対する配慮が足りなかったと猛省しました。私自身も,「お前の家族を過失で殺してやる」と書かれた差出人不明の手紙をもらったりしました。
 しかし,遺族がどんなに不満を抱こうが,検察は法と証拠に基づいた処理をするしかありません。この事故は,当時の業務上過失致死傷罪の最高刑である懲役5年の判決が言い渡されましたが,遺族らの気持ちは若干和らいだものの,やはり納得してはくれませんでした。この事件の後,自動車運転過失致死傷罪が新設され,最高刑が懲役7年となりました。