[事例] 下着窃盗事件

 私は,検察官生活の最後のころ,驚くべき無罪判決に遭遇したことがありましたので,紹介したいと思います。

 高松高等裁判所は,平成24年6月19日,ベランダからの女性用下着等窃盗事件につき,一審の有罪判決を破棄し,無罪を言い渡しました。
 事件の被害者は,4名で,そのうち2名は,異なる時期に2度にわたりベランダから下着を盗まれ,うち1名は,異なる時期にベランダから下着を,郵便受けからレターパックを盗まれ,うち1名はベランダから下着を盗まれ,被告人はこれらの下着等を含む800枚余りの女性用下着を自宅に保管していて押収されました。
 高松高裁は,「被告人が,被害品を入手した経緯としては,真犯人その他第三者からの窃盗を含む他の可能性も考えられ,被告人がそうした別の犯行を糊塗するために虚偽の弁解をしている可能性も考えられないではないから,本件の間接事実に被告人の供述が信用できないという事情を併せてみても,そのような間接事実及び証拠状況はなお,被告人が犯人でないとしても合理的に説明することが可能であり,これにより被告人が各犯行の犯人であると推認することまではできないというべきである。」としました。「真犯人その他第三者からの窃盗を含む他の可能性も考えられる」などという抽象的な可能性を挙げて無罪を言い渡した事例に遭遇したのは初めてで,開いた口が塞がりませんでした。

 上記判示部分は,判決をそのまま引用したものですが,何をいっているのかよく分からない人がいるかもしれませんので,解説しますと,要するに,被告人は,各被害者宅のベランダから直接下着を盗んだのではなく,被告人以外の「真犯人」がいて,その真犯人から盗んだ可能性等があるから,被害者から直接盗んだという起訴事実については無罪だといっているわけです。複数の被害者が異なる時期に盗まれた下着を800枚もの女性用下着と一緒に保管していた被告人は,本件各犯行の犯人だと考えるのが常識というものでしょう。
 こんな理由で無罪にされた被告人は,日本の裁判制度に呆れてしまい,二度と下着泥棒はしないと神に誓ったかもしれません。この高裁判決については,論理則・経験則に反し,著しく正義に反する裁判であると認められましたので,上告されています。