[事例] 義足強姦事件

 強姦事件の被害者は女子中学生で,被告人は片足の付け根から先が義足の男性でした。被害者は友人の女子中学生と一緒に夜遊びをしていて,被告人らの男性グループと合流し,2台の車に分乗してドライブに行くことになり,その後,車の中で被告人と2人きりにされ,後部座席で強姦されたと訴えました。被告人は,捜査公判を通じて強姦はしていないと否認していました。

 裁判は,一審:有罪→控訴審:破棄差戻し→差戻審:有罪→控訴審:無罪というちょっと変わった経過を辿りました。被害者は,「車の運手席後ろの後部座席に押し込められ,助手席後ろに座った被告人に下着等を脱がされ,被告人も下半身裸になってから被害者の足の上に跨がってきて強姦された。」と供述していましたが,義足の被告人にこのような犯行が可能であるかが問題となっていたのに,一審では検証等が行われていなかったため,控訴審は,この点につき検証を行うなどしてはっきりさせるよう命じ差戻したのでした。

 捜査段階では,警察官により犯行の再現見分が行われていましたが,被告人と同じような義足を使用している人による再現検証が行われたのは,差戻し後の一審になってからでした。検証の結果,義足をつけた犯人役の男性が後部座席に座ってズボンを脱ぐのはかなり困難であること,後部座席の助手席側から運転席側に移動しようとすると運転席の背もたれ(犯行当時の位置に設定)に犯人役の男性の腰などが当たってしまい移動することができないか極めて困難であることが明らかになりました。
 ところが検証を主宰した裁判所は,運転席の座席の位置を前方に移動させることにより空間を作り,なんとか移動することができるということを検証の結果とし,被害者の証言は信用できるとして再び被告人を有罪としました。弁護人が控訴したところ,差戻し後控訴審はこの検証のやり方を問題とし,被告人が犯行をスムーズに行ったとする被害者の証言は信用できないとして無罪を言い渡したのでした。

 本件においては,被害者の供述の信用性を判断するため,捜査段階で義足を使用している人を探し,犯人役を依頼して再現見分を行うべきでしたし,少なくとも一審段階で弁護人は検証の実現に尽力すべきだったと思います。供述の信用性を判断するにはその裏付けがとれるかどうか実験してみるのがもっとも効果的だからです。
 本件においては基本に忠実な捜査・公判が行われたとはとてもいえないと思います。特に差戻し後の一審の検証方法は,検証の条件を「被告人に不利に」設定しており,信じられないようなことが行われていることを知り衝撃を受けたものでした。

 こういうことはいつでも起こり得ることなので注意が必要です。最近問題になったパソコン遠隔操作事件で誤認逮捕された少年の場合は,事実を認める供述をさせられていましたが,大量の脅迫メールの作成・送信について,その供述に基づく再現実験を行わなかったため,検察官は,事実を認める供述が虚偽であることに気付かなかったようです。