[事例] 強盗殺人事件

 ある強盗殺人事件の被疑者両名は,犯行に至る経緯,犯行状況,犯行後の逃走状況,強取した現金の分配状況等のあらゆる事項について詳細な供述をしながら,さしたる理由なしに供述内容を変更していましたし,特定の事項について警察官に対する供述と検察官に対する供述で内容が異なっているということもありました。供述が一貫していたのは,被害者の遺体の状況から容易に推認できる殺害方法の基本的な部分だけであり,この点についても具体的,詳細な状況については供述に変遷があり,被疑者両名の供述内容にも食い違いがありました。特に捜査機関側が証拠によって確定(推認)できない事項である,被害者方に行くまでの経緯,奪った金額,奪った物,奪った場所,現金の分配金額,分配した場所,被害者方からの逃走状況等については,供述内容が著しく変転し,いったい何をいおうとしているのか分からないような状態でした。また,重要な客観的事実と異なる(疑いのある)内容の供述が見られました。
 さらに,本件においては,犯行の最中に現場の状況が激変した(床が抜け落ちた)と認められ,その場にいた者であれば,当然その状況について詳細に供述して然るべきであると考えられるのに,その状況についてのリアルな供述がなされていませんでした。秘密の暴露といえるような供述も認められませんでした。
 被疑者両名の供述は,このようなものでしたが,検察官は,自白事件であるとして起訴し,この裁判に関わった多数の裁判官が,これを任意性・信用性のある「自白」であると認定しました。この事件の被告人両名は,再審で無罪となりました。
 供述の任意性・信用性の判断は困難な課題です。本件において,最高裁判所は,被疑者の供述が変遷した理由を何とか説明しようとして,「捜査段階で故意に供述を変転させておけば,裁判で争うと通用すると被告人が考えたからだと推認できる」と判示していましたが,被疑者の年齢・経験・前科等に照らし,とても合理的な推認だとは思えませんし,有罪の結論ありきの苦しい説明だといわざるを得ません。
 本件はかなり昔に発生した事件ですが,今発生したなら裁判員裁判対象事件であり,警察でも検察でも取調べの録音・録画が行われることになりますので,任意性・信用性の判断に有効なツールが与えられることになります。少なくとも,信用性の説明に苦しみ,上記のような無理な説明をする必要はなくなるでしょう。