[事例] 強盗殺人事件発生

 今,強盗殺人事件が発生したと仮定して,中小地検の決裁官が行うべきことを検討してみます。給与が高いぶん責任も重くなることが分かると思います。

 警察本部から強盗殺人事件発生の報告が本部係検事(各検察庁に殺人等の重大事件を担当する検事が置かれています。通常ある程度捜査能力のある検事が指名されますが,決裁官がそうであるように,必ずしも優秀な検事ばかりではないので,困ります。)に入るので,決裁官は,本部係から報告を受け,主任検察官を指名し(通常本部係検事を指名することになります。),現場への臨場,司法解剖への立会等を行わせるとともに,警察から適時適切に捜査の進捗状況等の説明を受けさせ,主任検察官から報告を受けます。
 決裁官は,捜査の進捗状況をみながら,庁全体の業務の状況を把握・予測し,事件着手後の捜査態勢につき検討し,自庁の検察官のみでは本件の捜査態勢を組むことが困難であると考える場合には,高検次席等に対し,なるべく早めに必要とされる応援検察官の数・応援期間等を連絡し,応援要請をしておかなければなりません。
 決裁官は,主任検察官から適宜報告を受けて証拠関係を把握し,捜査が進展して警察との着手協議が行われるに当たっては,犯人を絞り込んだ過程や証拠関係等につき,詳細な報告を受け,必要があれば自ら直接証拠を検討し,主任検察官とともに慎重に吟味検討して強制捜査着手の可否や時期につき判断すべきです。その際,自白を除いても被疑者を逮捕できるだけの証拠関係にあるのか,自白事件だという場合には,取調べは適正に行われたか,供述に具体性や迫真性があるか,不自然な点はないか,裏付けはどの程度あるのか,秘密の暴露は含まれているか,客観証拠との矛盾はないか,供述に変遷がある場合には変遷した理由についての合理的な説明がなされているか,共犯事件であれば,相互の供述に齟齬はないか等を検討させるべきですし,自らも検討・吟味すべきです。
 また,いわゆる別件での逮捕を検討するに当たっては,その別件が起訴価値のあるものか,別件についての証拠関係はどうなっているのか,強盗殺人につき聴取が及んでも不適切でない事案か等につき検討し,適切な事件を選定するよう指導すべきですし,もとより,別件の捜査に名を借りて専ら本件の取調べ等を行うことがないよう主任検察官に指示して,警察を指導させなければなりません。
 強制捜査の着手を了承する段階では,捜査計画,応援を含む捜査態勢,共同捜査に加わる検察官・検察事務官の役割分担,警察が行うべき捜査と検察が行うべき捜査の振分け,調書作成に当たっての注意事項やそれについての取決め等が行われていなければなりませんから,その旨主任検察官を指導すべきです。
 事件の処理に当たっては,収集された証拠中のいわゆる消極証拠を必ず報告するよう指導しなければならず,証拠構造に占める当該証拠の意味等について,慎重に吟味検討させ,自らも検討すべきです。
 目撃証言については,視認条件,観察の意識性の有無,証言をするに至った経緯,供述内容の変遷の有無,供述内容が信用できるといえる程度に裏付けが取れているか等について,慎重に吟味検討されなければなりませんし,被疑者の供述については,上記のほか,被疑者の知的水準,年齢等に鑑み誘導等による影響を受けやすい者であるか,供述内容は自然か,不適切な取調べが行われなかったか等についても検討されなければなりません。
 処理決裁の際には,主任検察官に簡にして要を得た書面を作成させるべきであると思います。

 事件が起訴されて公判段階に至ったら,決裁官は,事件の難易度等を検討し,適切な公判立会検察官を指名すべきです。現在,非部制庁(部が置かれていない中小地検)では,捜査の主任検察官ともう1,2名の検察官の共同立会としているところが多いと思います。  決裁官は,公判担当検察官をして,もう一度客観的な眼で証拠を精査し,証拠の証拠能力,証明力等を検討させ,必要に応じて補充捜査を行わせ,証拠構造を踏まえ,証拠を厳選して立証計画を策定させる必要があります。警察との連携を密にするよう指導し,被告人や弁護人からの新たな主張・立証に対しても,その内容を的確に把握させ,必要に応じて立証計画を見直させるなど臨機応変な公判活動を行わせ,適宜公判状況を報告させて適切な指導を行わなければなりません。

 次席検事ともなると,当該検察庁で扱っている全事件について,このようなことを実行しなければならないのですから大変なわけです。