裏金捜査

 私は,4月に特捜部に異動になり,総会屋関連の事件とは全く別の特命事項の捜査を命じられました。
 ところで,私は,C証券会社が総会屋Fに証券取引で提供した利益が数千万円しかなく,これでFが納得するはずはないので,いわゆる裏金が渡っているに違いないと証券取引等監視委員会にいたときから考えていたのですが,特別調査官には,証券取引に関連する犯則事件の調査権限しかないので,裏金の解明などはできなかったため,特捜部に異動になってからも,主任検事の了解を得て,この点の捜査だけは続けさせてもらいました。その結果,4億円くらいの裏金作りを発見することができましたので,簡単に説明しておくことにします。

 C証券会社に対する捜査担当班でも裏金作りの捜査をしていたようですが,難航していたようで,裏金が出たという情報は入ってきませんでした。私の方もパソコンあたりで裏金を作っていないかと当たりをつけ,パソコン台帳等を検討してみましたが,痕跡を見つけることはできませんでした。C証券会社の捜査担当班では絵画台帳を検討し,絵画台帳には載っているけれども実際には存在しない絵画があるのではないか,つまり架空取引があるのではないかという観点から,実際にC証券会社に行って確認してきたけれども全て実物が存在するので,絵画を利用した裏金作りはないのではないかということでした。私は,念のため絵画台帳を見せてもらいました。そうしたところ,極めて不自然な記載が目にとまりました。

 絵画台帳には,購入した日付,金額,画題(写真も付いていたかもしれません。)等が記載されていたほか,それが,いつから,C証券会社内のどこにあるのかも記載され,たとえば,6月1日会議室,7月1日社長室などとの記載がありました。私が,極めて不自然であると思ったのは,いくつかの絵画が,購入した当日に「倉庫」に保管されていると記載されていたことでした。C証券会社は,絵画取引で利益を上げているわけではないので,購入した絵画を倉庫に保管する必要性はあまり考えられません。したがって倉庫に入れられた絵画は特に飾る理由も必要もないのに購入されたものと思われました。
 しかも,倉庫に入れられた絵画は,バブル期の取引価格よりもかなり高い値段で購入されたことになっていました。私は,たまたまバブル期における銀座の画商による脱税事件の捜査に関与したことがあり,そのとき取引された絵画と同じものがC証券会社の絵画台帳に載っていることに気付いたのでした。それで国税局の画商による脱税事件の担当者にきてもらい確認してもらったところ,やはり何点かの絵画がバブル期より高い値段で購入されていることがわかりましたので,C証券会社が某画商から高値で絵画を購入したことにして代金を支払い,適正価格との差額をバックさせ,いわゆる裏金を作ったことが推測されました。早速,某画商に対する捜索差押えを実施し,関係者の取調べを実施してもらったところ,4億円くらいの裏金の存在が確認でき,うち3億円くらいが総会屋Fに渡ったことも判明したのでした。なお,われわれが,令状を持って某画商の事務所に乗り込んだところ,事務所にいた,いかにも経理担当という感じの高齢の女性がノートを破いて口の中に隠すという映画の一場面のような事態に出くわしたことがありました。